双極性障害(躁うつ病) Bipolar Disorder

 躁うつ病は感情病とか、気分障害とも呼ばれています。感情と行動の面に主に特徴的な変化が現れ、定型的なものでは気分がひどく沈み、憂鬱となるようなうつ状態と、気分が高揚し、ひどく活発になるような躁状態とのまったく対照的な状態を周期的に現し、おさまると正常な状態に戻ります。
 一般人口でのこの病気の出現率は、0.44%で約200人に1人くらいの割合です。

症状

この病気の特徴は、うつ状態(うつ病)と躁状態(躁病)が周期的に現れ、病気以外の時はまったくの正常な状態です。二つの状態が決まった形で交互に現れることはむしろまれなことで、実際には様々な組み合わせで病気の期間の長さや病状の軽重も個々によって異なります。
うつ状態の症状
・鬱気分となります
 「憂鬱だ」、「気分が沈む」などの表現で、憂鬱な気分を訴えるようになります。興味や関心が次第に失われ、何をしても面白くなくなります。憂鬱な気分にともなって表情も暗く、見るからに元気のなさが目立ってきます。この気分は一般に朝方に悪く、夕方には多少回復します(日内変動)。

・悲観的な考え、自殺企図

 表情も暗く、口数も少なくなり、話し方もぽつりぽつりと話すようになり、部屋に閉じこもりがちになります。考えもうまくまとまらず、少しのことでも決断に時間がかかり、仕事の能率も悪くなります。
 強い憂鬱感のために将来に対して、悲観的・絶望的な考えを抱くようになります。些細なことをくよくよと悩み、過去のことを思い出してはああすればよかったと後悔し、自責の念にかられます。
 「生きていても仕方ない」、「死にたい」と家族や親しい人に口走ったり、実際に自殺を企てたりします。うつ病の初期および回復期に自殺が多く見られます。不安、焦燥感もみられます。

・妄想
悲観的・厭世的となり、そのうえ劣等感、自責感も強くなると、妄想を抱き、いくらそんな事実がないことを説得しても受け付けなくなります。
 貧困妄想(お金に困り、家族は路頭に迷うようになると考える)
 罪業妄想(自分がしたことで、多くの人に迷惑をかけて申し訳ないと考える)
 微小妄想(自分は取るに足らない人間で、皆の足手まといになると考える)
 心気妄想(自分は重い病気に罹ってるから身体の調子が悪いと考える)

・活動意欲の低下
 行動は不活発、緩慢となり、口数も少なく何をするにつけても億劫となり、何もしたくなくなり、仕事の能率は低下します。外出を嫌い、人との接触を避け部屋に閉じこもります。

・身体症状
不眠、食欲減退、性欲減退、便秘をしばしば訴えます。その他、体重減少、月経異常、口渇、頭重、疲労感、心悸亢進(普通には自覚されない心臓の鼓動を感じること)などもみられます。
躁状態の症状
・気分の高揚
 感情は高まり、陽気、上機嫌、愉快そうな活発な表情となり、態度も尊大となります。感情は不安定で、些細なことで怒ったりまた感激しやすく、泣き出したりすることもみられます。多弁となり、話の内容も誇大的となります。
 爽快な気分と共に着想が豊富となり、次々に考えが湧き出てきます(観念奔逸)。考えも変わりやすく次から次へと移ります。そのため早口、多弁、雄弁で、話がそれからそれへと発展し、全体としてまとまりのないものとなります。話の内容も次第に大きくなり誇大妄想に発展します。自分の血統、身分、能力、財産、体力が他の人より著しく優れているという妄想を抱きます。

・多弁、他動、活発な行動
 活動的で、夜もほとんど眠らず、早朝からじっとしていられず外出したり、電話をかけまくり、活発に動き疲れも訴えません。口数はやたらに多くなり絶えずしゃべっており、声も大きくなり、新しいことを計画し、それもすぐに実行にうつしたり、他人のことにやたらに干渉しがちで争いを起こしたりします。本人の行動を他人に制止されたりすると、起こったり喧嘩に発展することもあります。手紙やメモをやたらいに書いたり、いろいろなものを集めてきたり、金に糸目をつけず高価な物を買ってきたりします。
 食欲は亢進します。性欲も高まり、行動の活発さも加わり、ときに猥褻行為を示すことも少なくありません。このような本人の状態に対して患者さんは病識を持っていません。

家族や周囲の人の対処法

躁状態は、家族にとっては、大変なストレスとなります。患者さんが話し続け、それを聞かないと怒り出すので一晩中付き合っていた、などという話もよく聞きます。しかし、必ずしもしっかり付き合ってあげた方が病気がよくなるというわけでもなく、議論を始めたりすると逆にますます興奮してしまいます。
 例えば、子供じみた行動をとっていても、決して子ども扱いせず、相手を立てるようにしながら対等に話し、根気よく説得します。たとえ患者さんが感情的になっていても、それにつられて怒ったりせず、冷静に粘り強く、患者さんの持っている正常な部分と取り引きするようにするのがコツです。しかし、あまりにしつこい場合は話をそらすなど、対応を工夫するしかありません。
 このように、ある程度話をあわせて、相手を立てつつ、あまり刺激しないようにして、とにかく治療の効果を待ちます。
 あまりに家族にとってストレスとなり、家族の信頼関係にひびがはいるようなら、入院治療に切り替えてもらった方がよいでしょう。